GAP(農業生産工程管理)をするということ、とるということ。
してよし、取ってよしのGAP
今回はGAP(農業生産工程管理)に関してです。GAPに取り組むこと、またGAP認証を取ることは、海外の食品市場進出や東京オリンピックでの納品を狙う上でも非常に重要になってきます。この記事では、そもそもGAPとは何かというところから始め、具体的にGAPとはどのような取り組みをしていくものなのか、そしてGAP認証を取るためにはどう手続きを進めればいいのかまで網羅的にご紹介していきます。
GAP(農業生産工程管理)の概要
○GAP とは?
GAP とは、Good Agricultural Practice の略で、農業生産工程管理、または適正農業規範、と訳されます。農業において、食品安全、環境保全、労働安全、などの持続可能性を確保するために実施すべきことをまとめたもので、このGAPに則した取り組みを行っている生産者は、GAP認証を取得することができます。
GAP認証は元々、1990年代にヨーロッパで誕生しました。欧米では、流通小売業に食品事故の第一次責任が求められることが多く、各スーパーマーケットは仕入れる食品に対してそれぞれ独自の安全基準を設けていました。しかしながら、納入先スーパーによって基準がバラバラだと、生産者側としては非常に煩雑です。特にヨーロッパでは、国をまたいだ農産物の流通も多く、この基準の違いは、生産者だけでなく、小売側にとっても基準チェックのコストを増大させます。
そこで、国際的に通用する統一安全基準として整備されたのがGAPだったのです。生産者は、GAPを利用することで各納品先の安全基準を一括でクリアできることになりました。また小売側も、GAPの認証を受けている農産物を仕入れれば、安全基準を自らチェックする労力を割かずにすむようになったのです。
○GAPにはどんなメリットがあるのか?
GAPとの関わり方は、「する」と「とる」に分けることができます。
GAPを「する」とは、GAPに定められている取り組みを農産物の生産工程において実施することです。外部機関にGAP認証されるか否かは、この「する」という場面においては関係ありません。
GAP認証を得なくとも、GAPに取り組むこと自体に直接的な効果があります。詳しくは後述しますが、例えば、異物混入防止や農薬管理の徹底による食品の安全性の向上、現場での適切なマニュアルづくりによる作業効率化、必要なデータ整備を通じた農場経営の改善、などです。
実際に、農林水産省の資料によれば、多くの生産者がGAP実施による経営改善効果を実感しています。
出典: 農林水産省『「GAP」でより良い農業経営を!』
GAPに取り組むだけでなく、外部機関からGAP認証を「とる」ことでさらに大きな効果を得ることができます。
まず、GAP認証を取ることで、海外市場へ農産物を売り込んで行く際に有利になります。
なぜなら、ASIA GAPとGLOBAL GAP(GAPの種類については後述)は、GFSI(Global Food Safety Initiative, 世界食品安全イニシアチブ)承認認証規格として認められているからです。このGFSIのボードメンバーには、カーギル、アマゾン、イオン、ウォルマート、コカコーラ、コストコ、中糧集団有限公司、など、メーカーから卸小売まで名だたる食品関連企業が名を連ねています。
近年、特に欧米の市場では、生産者がGFSI承認認証規格を有していることが取引条件となりつつあります。
日本の市場においてもGAP認証は徐々に浸透しつつあり、イオンやローソン、イトーヨーカドーなどを始めとする企業が、GAP認証農産物を積極的に取り扱う「GAPパートナー」として、農林水産省ホームページに掲載されています。
また、GAP認証を取ることで、来たる東京オリンピック/パラリンピックで食材を納品することができるようになります!東京オリンピック/パラリンピックでは、組織委員会が「持続可能性に配慮した農産物の調達基準」を定めており、基本的にGAPの基準を満たして認証された農産物を調達対象としています。
GAP(農業生産工程管理)をするということ
~具体的な取り組み~
では、実際にGAPに取り組むという時に、具体的に何をすれば良いのでしょうか。
GAPの5つの柱に沿って見ていきましょう。
1.食品安全
・重金属やかび等による汚染防止
・農薬の適切な保管/使用
・作業者自身の衛生管理
・農機具の安全な取扱
・異物の混入防止
・収穫した農産物の保管方法
などについてのルール作り/運用をすることで、顧客からの安全性に関する評価を高めると共に、食品事故のリスクを減らすことができます。
2. 環境保全
・農薬による汚染の防止
・適切な土壌管理
・廃棄物/排水の適切な処理
・施設や機械使用時のエネルギー消費の削減
・有害鳥獣による被害防止
などについてのルール作り/運用をすることで、周囲の環境を保全することができます。これにより、長期的に安定した農業生産が期待できるようになると同時に、エネルギー消費の効率化などを通じて採算性の向上も見込めます。
3. 労働安全
・危険な作業の洗い出し
・適切な服装や保護具の着用
・機器の適切な使用
・警告標識の配置
・応急処置講習会の受講
などについてのルール作り/運用をすることで、農場で働く労働者の安全を確保できます。労働者がよりストレスの少ない環境で働くことができるようになるので、作業効率の向上も期待できます。
4. 人権保護
・休憩時間の確保
・性別/出身地/宗教による差別行為の禁止
・過剰労働の軽減
・雇用契約書の作成
・社会保険/労災保険への加入
などについてのルール作り/運用をすることで、労働者間、経営者-労働者間の関係が改善します。より良い労働環境は、生産性を向上させると同時に、人手不足が叫ばれる昨今において人材確保もしやすくなります。
5. 農場経営管理
・農場マップの作成
・指揮命令系統の確立
・教育訓練の実施
・運営上必要な情報の記録
・外部委託者の監視
・クレーム対応
などについてのルール作り/運用をすることで、トラブルの際にも記録を元に動くことができるようになります。また、過去のデータを活用することで、農場の経営改善が期待できます。
GAP(農業生産工程管理)をとるということ
~認証の手続き~
GAPは、実施するだけで様々な直接的効果があるというのはここまでで述べた通りですが、やはりせっかくやるのであればGAP認証を取りたいと思う方が多いのではないでしょうか。ここでは、GAP認証の取り方について解説します。
○実は3種類あるGAP
まず、実はGAPには3種類あります。Global GAP, Asia GAP, JGAP の3つです。
Global GAP は、ドイツのFoodPLUSGmbHが主体となって運営しています。GAPの本家とも言える認証制度ですが、それだけあってか審査費用などは25万円~55万円と高めです。日本人がいる審査会社は国内に3社、具体的には、
・テュフズードジャパン(東京都)
・インターテック・サーティフィケーション(東京都)
・SGSジャパン(神奈川県)
があります。
一方、Asia GAP/ JGAPは、一般財団法人日本GAP協会が運営しているもので、日本発のGAP認証制度です。Asia GAP に関してはGFSIの承認も受けており、グローバルにも通用する認証だということができます。審査費用も10万円程度と、Global GAP と比べるとリーズナブルです。審査会社は、
・北海道有機認証・GAP認証センター(北海道)
・インターテック・サーティフィケーション(東京都)
・日本能率協会審査登録センター(東京都)
・S&Sサーティフィケーション(東京都)
・ビューローベリタスジャパン(神奈川県)
の5つがあります。
○予算の強い味方、団体認証
ここまで読んできて、少しGAPの審査費用を見て二の足を踏んでいるという方もいるのではないでしょうか。たしかに、GAP認証取得にあたっては、指導コンサルに対するコンサル料も別途必要となることも多く、それなりの金額になることもあるのは事実です。
そんな費用負担を軽減してくれるのが、ASIA GAP やJGAPで利用できる団体認証の仕組みです。団体認証では、農協やコンサル会社などを団体事務局として、複数の経営体が一括で認証を受ける仕組みです。グループのうち何社かが選ばれて審査を受ける抽出審査となり、審査費用をグループの構成員で折半することができるため、1社あたりの負担を減らすことができます。また、GAPで求められる取り組みもグループ全体で行うことができ、各社が別々に実施するよりも効率的です。
○認証取得までの流れ
では、実際にGAP認証を取得する場合は、どのような流れになるのでしょうか。
- 事前準備
基準書の入手、上で述べたようなGAPの取り組みの実施、そうした取組状況や組織体制に関する提出資料作成、などを進めます。ここで、専門コンサルに依頼して5回程度の指導を受けるケースも多いようです。その場合は、審査費用とは別にコンサル料金が発生します。
2. 審査会社による審査
上で述べた審査会社のいずれかに依頼して、審査員による現地での審査(必要書類、現場での取組状況など)を受けます。通常、数ヶ月前からの予約が必要なので注意が必要です。
必須項目の100%かつ重要項目の95%で「適合」と判断されると、合格となります。後日、不適合となった項目を改善し是正報告書を送付する必要があります。
3. 認証取得
晴れてGAP認証取得です!通常、事前準備を始めてから認証を取得するまで、半年~1年程度要する場合が多いようです。
ここまで、GAPについて一通りご紹介してきました。GAPは、取り組むこと自体が生産効率化や品質向上に繋がると同時に、GAP認証を取得すれば、海外市場での競争力・ブランド力強化が期待できます。
GAPを活用しながら、海外へどんどん日本の農産物を輸出していきましょう!!
「その食品、植物検疫は大丈夫?」なども是非合わせてご参照ください!
具体的にこの品物を輸出したいのだがどう運べばよいのか、など、輸出入で不安なことがありましたらお気軽にShippioにご相談ください!
Reference
農林水産省 「GAP」でより良い農業経営を!
農林水産省 GAPの取組・認証取得の拡大に向けて
農林水産省 GAP(農業生産工程管理)をめぐる情勢
Photo by Roman Synkevych on Unsplash